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震災復興で試される
「世界一」モノづくりの底力

2011年6月21日
チーフエコノミスト 杉浦哲郎

復旧能力の高さを示したサプライチェーン

  東日本大震災によって大きなダメージを受けたサプライチェーンは、予想以上に早く修復されつつある。秋以降とされていた自動車生産の正常化は6月末に前倒しされたし、電子機器・部品や素材の生産も回復が進んでいる。マクロ経済指標でみても、鉱工業生産は急速に持ち直しつつあり、6月の生産は2月の水準にほぼ復帰すると予想されている。

  サプライチェーンの修復が急速に進んだ背景に、モノづくり企業の強い現場力や、供給責任に対する強い意思があったことは疑いない。自動車・電機向け半導体を手がけるルネサスエレクトロニクスの那珂工場には、ユーザー企業から2,000人を超える支援要員が派遣されたと伝えられる。また、代替部品や素材を検討・確保して、納期までに製品を納めようとする企業の必死の努力を目の当たりにして、モノづくり企業の強じんさを強く認識したのは、筆者だけではあるまい。

  その結果、海外を含めた他企業、他地域に部品・素材調達拠点を移すという、いわゆる“東北外し”“日本外し”が大規模に起きる前に、サプライチェーンは修復された。実際、当社研究員による現地調査によれば、タイやシンガポールの工業製品生産は、日本からの部品供給の早期再開を受けて、5月には大きく回復したという(注)。

  企業のリスク分散や今夏以降の電力供給に対する懸念を受けて、生産・調達拠点をシフトする動きがいくつか出ていることは事実としても、日本におけるサプライチェーンの復旧能力の高さは、そのような動きに対する大きな歯止めになったと考えられる。

被災地のモノづくり産業を取り巻く2つの事実

  しかし一方で、モノづくり産業が主導する形で被災地の復興・再生を進めることが可能なのかどうかとなると、筆者は少なからぬ懸念を抱く。

  第一に、被災県(岩手・宮城・福島の3県)において、モノづくりは重要な産業で伸びも目覚しいが、日本全体に占めるシェアは必ずしも高くなく、また上昇もしていないという事実がある(図表1、2)。例えば、輸送用機械産業の全国シェアは2%と低い。伸びが最も高くシェアも高い電気機械にしても、全国シェアはほぼ横ばいであり、被災県は全国平均並みにしか成長していないことを示している。つまり、被災県はモノづくりにおいて、日本のハートランド(中枢地帯)では必ずしもないということになる。

図表1:被災3県の産業別GDP

図表2:被災3県の全国シェア

  第二に、被災県のモノづくり産業は、付加価値率(付加価値額/出荷額)が低い。とくに電気機械や輸送用機械では、全国平均や東北の他地域を下回っており(図表3)、被災県の中核的産業が、地元に大きな利益をもたらしてきたわけでは必ずしもないことがわかる。前述のルネサスエレクトロニクスも、内外における自動車・電気製品製造に不可欠な半導体を生産していたにもかかわらず、低収益に苦しんでいたと伝えられる。被災地のモノづくり産業には、そのような企業が少なくなかったと推測されるのである。

図表2:産業別付加価値率

  先述したように、各企業の素晴らしい努力の結果、被災地のサプライチェーンは予想以上に早期に修復された。被災地企業を含めたサプライチェーンを従前のように維持し、強い競争力を有する製品を作り続ける、と述べる大手企業経営者も少なくない。しかし、それは被災地にとってみれば、収益を生まない生産拠点のひとつ(ワン・オブ・ゼム)であり続けることを意味している。それが、被災地にとって望ましい復興の姿なのだろうか。

技術力「世界一」なのに低収益

  今回の震災が明らかにしたように、被災地を含め日本には、優れた部品・素材製造技術やノウハウを背景に、世界市場で大きなシェアを持つ中小モノづくり企業(いわゆる「世界ナンバーワン企業」「世界オンリーワン企業」)が数多く存在する。多くの場合、彼らが作るのは小さな部品や素材だが、それが自動車や電子機器の機能向上に不可欠であるがゆえに、彼らはサプライチェーンにおけるきわめて重要なプレーヤーであり、震災によってその生産が途絶したことが、生産プロセス全体を麻痺させてしまった。

  それにもかかわらず、彼らの多くが低収益に悩んでいるのはなぜか。高度な技術力や開発力を武器に、新興国の先をいく高付加価値のモノづくりを実現することが、経済成長を牽引するといわれてきたのではなかったか。

  彼らがナンバーワン企業、オンリーワン企業になれたのは、技術力の高さに加え、サプライチェーンをめぐる市場構造の変化があったことによる。製品が高度化・多様化するにつれ、部品や素材は細分化・高機能化され、また頻繁な改良を求められるようになり、それに伴って個々の市場は細分化され、変化も競争も激しくなった。その過程で、企業は集約され退出も進み、市場ではナンバーワン企業、オンリーワン企業による寡占化が生じた。その中で彼らは、完成品メーカーとの共同開発や擦り合わせを経て、系列企業、下請け企業という性格を強めていったと考えられる。それは、安定した販売先を確保する一方で、絶えざる設備投資や研究開発のための支出、コスト削減圧力を受けること意味し、彼らの収益を圧迫することになったのである。

「系列依存」という弱点を乗り越えられるか?

  今回の震災は、そのような生産システムが、彼らにとって大きな潜在リスクとなり得ることを示した。完成品メーカーがリスク回避のために、設備の共通化や部品の集約化を進めれば、これまでのナンバーワン企業、オンリーワン企業は、その存立基盤を失うことになるかもしれない。

  また、サプライチェーンの複線化が進めば、他企業による代替は、これまでよりも容易になる可能性がある。つまり、被災地のモノづくり企業がこれまでのポジションを維持するだけであれば、当面の販売先は確保できるとしても、いずれはサプライチェーンそのものの見直しの中で、事業基盤が揺らぐ可能性は震災前よりも高まっていると考えられる。その結果、彼らが地元経済の復興を牽引する力も、次第に弱まっていくと思われるのである。

  彼そうだとすれば、毀損したサプライチェーンの迅速な修復をもって、復興が順調に進んでいると考えるのはミスリーディングである。また、被災地にナンバーワン企業、オンリーワン企業が多いからといって、それだけでモノづくりが地域経済復興の大きな原動力になれるわけでもない。問題は、彼らが持てる技術やノウハウを用いて、いかに収益力を高め、地域経済により多くを還元できるかということである。

  この問いに対して、これまでの考察から導き出される結論は、被災地のモノづくり企業は、系列への依存を弱め独立性を強めることによって、高い付加価値(=収益)を生み出し、さらなる成長の機会を獲得し、ひいては経済復興を支える原動力になり得る、ということである。実際、サプライチェーンに組み込まれながら高い収益を上げている企業をみると、個々の製品における強い競争力のみならず、迅速・効率的な生産やデリバリーのシステムを構築し、販路を限定せず広く世界に求めていること、儲からなければ取引しないという方針を堅持していることに気付く。

  一般論で言えば、すべての企業がそのように振る舞えるわけではなく、これまでのように安定的な取引関係を重視する企業も当然あり得る。しかし、モノづくり企業が有するポテンシャルの高さを考慮すれば、例えばドイツの自動車部品企業のように強い独立性を有する企業がもっとあってよいはずだし、オープン・イノベーションというここ数年の世界的トレンドを勘案すれば、さまざまな強みを有する被災地のモノづくり企業が、多様なグローバル企業と取引関係を築き、付加価値の増大を実現できる可能性が、従来にも増して高まっているということができる。

  そして、被災地に存在する多様な産業集積とそれを支える技術の蓄積や人材の厚み、また「東北産業クラスター計画」など、それらの集積をさらに発展させようとする動きをみれば、被災地のモノづくり企業が従来以上の成長力と牽引力を獲得することは困難ではないと考えるのである。

  1. 注:小林公司「東日本大震災のアジア経済への影響」(みずほ総合研究所『みずほアジア・オセアニアインサイト』2011年6月14日)

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