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中国の2018年の経済成長率は実質で6.6%と、1990年以来28年ぶりの低水準を記録し、経済の減速が鮮明となりました。2019年についても、李克強首相は3月15日に閉幕した全国人民代表大会(全人代)第2回会議の政府活動報告において成長率目標を「6~6.5%」に設定し、18年の「6.5%前後」から引き下げました(下図)。数値を前年から引き下げたうえに幅を持たせたのは、さらなる下振れを意識する一方で、「6%」は死守したいという中国当局の強い決意の表れといえます。世界2位の経済大国である中国は、高水準の債務を抱えながら投資主導の成長からの転換を図っており、中長期的には成長が一段と鈍化する局面に差し掛かっているといえます。そうしたなかで今、中国経済に起きていることは、成長率のゼロ・コンマ数%ポイントの変動幅ではとらえきれない非連続的な大変化であり、数年後に振り返ったとき、18年は中国経済にとって「節目」であったと位置付けられるような気がしています。

■2019年の主な数値目標

減速の直接的な原因は、習近平政権がデレバレッジ(債務削減)を含む構造改革を強力に推し進めたことにあります。中国は08年のリーマン・ショック直後、4兆元の大規模な景気対策を実施し、またマネーの供給を伝統的な銀行システム、あるいは非伝統的なシャドーバンキングを介して増大させたことから、鉄道、道路、港湾などのインフラ投資が急ピッチで拡大するとともに不動産投資も回復。結果として一時的な景気浮揚には成功しましたが、インフレと不動産バブルを誘発する一方、地方政府債務の急拡大や住宅投資の過剰感の高まり、生産能力の過剰問題の深刻化など、さまざまな歪みが顕在化することとなりました。国際決済銀行(BIS)によると、中国の企業や家計、地方が抱える債務残高のGDP比率は18年9月末で約250%と、この10年で100ポイント余り増加しており、米国とほぼ並ぶ規模に膨れ上がっています。こうした投資主導の成長による弊害を強く意識する習政権は、景気減速をある程度容認しつつ構造改革を進める姿勢を、17年秋の共産党大会を終えた18年以降に強めていきました。この政策転換による下押し圧力が徐々に顕在化するなかで昨秋以降、追い打ちをかけることになったのが米国との通商摩擦です。

今や中国経済は「世界経済の要」「グローバル・サプライチェーンの中核拠点」として、海外経済との連関を深めています。米中通商摩擦がエスカレートするのに伴い、先行き不透明感の強まりから企業・家計マインドが悪化し、設備投資・消費を大きく押し下げる一方で、米中交渉の決着点が見えない状況が続くなか、日本企業をはじめ外資企業による中国生産拠点の移転や調達先変更など、グローバル・サプライチェーン見直しが進む可能性があります。仮に「米中の新冷戦」ともいわれる構図が定着した場合は、これまでの経済の論理によるグローバルな最適地生産モデルが揺らぎ、マネーやトレードのフローにも影響することが考えられます。

他方で、約4年周期で好況と不況を繰り返す半導体市況の循環的なダウンスイング局面入りも中国経済の減速と密接に連関しています。中国は世界の半導体需要の約4割を占める最大消費地です。その中国で設備投資が落ち込み、また、消費市場でもスマートフォンが販売不振に見舞われています。これまでは、販売数量の減少を販売単価の上昇で補ってきましたが、スマホの高機能化が進んで消費者の手が届かない価格帯に入り販売が減少。これは販売台数が28年ぶりに前年割れを記録した自動車など、いわゆる「ビッグチケット(big-ticket)」な消費財全般にいえることですが、これまでのように人口の多さを頼みに消費市場を開拓することが次第に容易でなくなる一方、経済の成熟化とともに消費性向が高い若年層を中心に、消費意識・行動の変化が起きていることの表れだと思います。

現在の中国経済は複合的な調整圧力に晒される、まさに「複合不況」リスクに直面しています。複合不況とは、バブル崩壊後の日本経済が過去に経験したことのない長期不況に直面したときに使われ、当時は流行語にもなりましたが、中国経済が日本の轍を踏む可能性がないわけではありません。習主席は今年初の講話で「中国経済は総体として良好であるが、経済発展が直面する国際環境、国内条件はいずれも深刻で複雑な変化が発生している」と述べ、かつてない強い危機感を示しました。過剰な生産設備と債務問題といった内憂に痛み、他方で米中通商摩擦や世界的な半導体スーパーサイクル変調といった外患に見舞われている。さらには、国内経済が成熟段階を迎え、「中所得国の罠」をどのようにして乗り越えていくのか、社会の格差拡大と中間所得層の不平不満をどのように解消していくのか、他方で対外的には「新冷戦」ともいわれる米国との通商交渉を通じて現在の国際秩序のどこに自国の立ち位置を見出すのか、中国は発展段階的にも「節目」を迎えているように思います。

もちろん、習政権も手をこまねいているわけではありません。昨年末以降、デレバレッジの行き過ぎを修正し、財政支出拡大や金融緩和などによる景気のてこ入れ姿勢を一段と強化しています。ただ、景気下支えを明確にして対策を並べたところで、債務問題の解消を先延ばしするに過ぎません。とりわけ過剰な債務を抱える重厚長大型の国有企業セクターは、過剰体質の解消が遅れることで、将来的な金融問題に発展しかねないリスクを一段と高めることになります。中国の金融セクターが公表する不良債権比率は、現在は極めて低い数値となっています。しかし、構造改革が先送りされ、企業の新陳代謝が遅れたとしても、どこかの時点ではいわゆる非効率企業の解消に取り組まざるを得ません。そのときに初めて、金融セクターの不良債権拡大、企業破綻の増大、さらには雇用問題といった、中国経済の大きな歪みに対する外科的手術は避けられないものとなるはずです。

中国自身はもちろんですが、日本をはじめ各国は中国経済のハードランディングだけは回避したいと考えています。顧みれば日本もバブル崩壊後の問題を先送りし、それに耐えきれず90年代後半から2000年代初頭にかけて、大きなショックに見舞われました。中国の場合は、当局による政策運営のコントロール力が極めて強く、財政の余力も十分にありますから、構造改革を進める意思と能力があれば、十分に対応可能だと見ています。ただし、中国当局にとって悩ましいのは、米国や西側社会で中国脅威論が高まるなか、米国との関係悪化が中国当局の政策対応をかなり困難にしたり、不安定化したりする恐れがあるということです。例えば、米国では中国のハイテク技術が米国の安全保障上のリスクになりかねないとし、議会は野党・民主党も含め超党派で、トランプ政権の対中強硬策に足並みをそろえ始めています。これに対し中国は3月の全人代において、外資企業に対する国内事業環境の透明性確保、知的財産権保護や強制的技術移転の禁止などを盛り込んだ「外商投資法」を成立させました。米国で高まる脅威論に対する中国なりの政策対応ですが、果たしてそのスピードとレベルは十分なものであるか、実効性は十分に担保されているかなど、米国などの求める内容と照らし合わせて合格ラインに達しているかどうかが問われてきます。

中国が経済の市場化とグローバル化にコミットしていくことを国際公約することになったWTO加盟から20年経ちますが、中国経済の減速は、この間の成長モデルが壁に突き当たり、方向転換を迫られていることを象徴していると思います。方向転換の先にあるのは、WTOが標榜する市場経済と自由貿易であり、具体的には国内の政治・経済・金融の持続的なシステムの確立であり、自由で公平・公正が確保されたユニバーサルな国際秩序との協調です。その「解」を求めることは非常に大きく、難しい問題ですが、過去20年間の成長モデルを転換しない限り、国内の構造改革は進展しないし、米国との通商摩擦も一筋では解決に向かうことはないと見ています。折しも、中国経済の一部の指標には、水準は極めて低いですが反転、底入れの兆しが見え始めており、循環的には19年1~3月期がボトムになると見ています。これから年央、年後半にかけて、そうしたサインが増え、底入れ期待が強まっていくことでしょう。ただし、それが中国経済の夜明けかというと、夜明けに違いないかもしれませんが、「偽りの夜明け」かもしれません。中国の成長モデルの転換が進まない限り、景気回復はダウンサイドリスクを抱えたままであり、必ずしも楽観的にはなれないと思います。(談)

(2019年4月1日)

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