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社員は会社に対して愛着心をもち、意欲的に働き、組織に貢献していますか?――企業の人材マネジメントが今後目指す方向性の1つとして、「エンゲージメント」(注)の向上・強化が注目されています。社員のエンゲージメントが高ければ、企業の規模や業種に関係なく、社員は意欲的に仕事と向き合い、自律的に良い職場づくりのために動き、そして業績向上の取り組みに前向きであると考えられています。そうした企業では、社員と会社が一体となり、双方の成長に貢献し合う関係性が生まれ、結果として、組織の目標やビジョンの達成、サービスレベルや顧客満足度の向上、離職率の低下など、持続的成長を実現できる「強い組織」の構築が期待できるのです。

企業の人材マネジメントは、かつてないほどの不確実性に直面しています。終身雇用が社員の安心感を生み、みんなでがむしゃらに働けば成長の果実を享受できた時代はすでに過ぎ、バブル崩壊後の長期的な経済低迷を経て、企業も社員も安泰であり続けるとは限らない状況となっています。他方で、一家の大黒柱として家族を養うため、滅私奉公的な働き方が美徳とされたベビーブーマー世代が退職年齢に達する一方、そんな父親の背中を見て育った20~30歳代の子世代が労働人口の約3割を占めるようになり、社会全体の仕事や労働、収入に対する価値観が大きく変わり始めています。若年層を中心に働き手の間では、「働く」ことの中心軸に自己実現を据え、より良い報酬や福利厚生、やりがいのある職務、働きやすい職場環境・文化を求める動きが活発化しています。とりわけ上昇志向が強く、キャリアアップやスキル向上を常に意識している人材ほど、自身のキャリアプランを追求して転職する傾向を強めており、人材の流動化が急速に進んでいます。厚生労働省の調査によると、大卒以上の新卒社員が3年以内に離職する率(早期離職率)が恒常的に3割を超える水準を示していますが、そこには働くことに対する価値観の変化が映し出されていると思います。さらに言えば、女性の社会進出が浸透する中、若年層を中心に、収入がダブルインカムの共働きを前提として夫婦で家事や育児を分担しながら働く生活スタイルが当たり前であるような家族観が広がっていることも、働くことの価値観の変化と結びついています。

企業は、こうした人材マネジメントの不確実性の高まりに加え、人手不足の深刻化に直面しており、自社の競争力を高めて持続的成長を実現していくためには、多様な人材を引き付け、定着・活躍できる組織環境づくりが待ったなしの状況となっています。かつて会社と社員の関係性は、中世日本における「御恩と奉公」ではありませんが、入社した会社でキャリアを積んで定年まで勤め上げるものと考えられてきました。しかし昨今は、辞めたくなったらすぐに辞める、自身の価値観と合わなければ会社との付き合いをやめればよい、といったシビアな感覚をもつ社員が増えており、だからこそ会社と社員がWin-Winの相思相愛な状態を追求し、関係性を維持していく必要があるのです。この関係性を測るうえで有意なメジャーがエンゲージメントです。

エンゲージメントが高い状態とは、社員にとって単にその会社の居心地が良いとか、給与が高いとかいう状態ではなく、「この会社にいれば、自分のありたい姿に向かって成長できる」「自己実現のための努力が会社のビジョン実現に貢献できる」と考える社員が多い状態を指します。具体的には、「会社で働くことへの誇りを持てる」「多様な職務機会やキャリア進展が経験できる」ほか、「福利厚生が充実している」「勤務時間の融通がきく」など働きやすさが得られる状態であり、会社としては社員が魅力に感じる価値を多面的に提供することが必要なのです。新卒採用やキャリア採用において、自己実現や働きやすさを前面に掲げる企業が人気を集めているのは、そうした理由からです。

これまで、多くの企業が従業員満足度調査の結果を尺度に会社と社員の結びつきを測り、人事部門は社員の会社に対する忠誠心や帰属意識を高める施策を検討してきました。ただ、満足度調査で測れるのは、社員という集団の全社あるいは部署別の平均値に過ぎないということを認識する必要があります。社員は調査実施後、結果を受けての状況改善策を期待します。しかし、平均値を基準に検討された施策では、多様な価値観に沿うことが難しくなってきています。そのため、これまでの集団調査だけでなく、社員のパーソナリティーにフォーカスし、どういった環境や機会を提供するのが有効であるかを検討するのが望ましいと思います。例えば、毎年1度は心理的充実度や主体的な貢献意欲を問う50~100問程度の大規模な「エンゲージサーベイ」を行う一方、日次や週次で現在の勤労意識や直属の上司との関係、職場環境などに関する質問を1~3問程度、パソコンやスマホの画面上にポップアップ表示して答えさせる「パルスサーベイ」など、エンゲージメントレベルをモニタリングするツールを組み合わせ、社員ごとのパーソナルデータを蓄積し、組織開発に活用します。

残念ながら、エンゲージメントの発想自体が欧米発祥であることも影響していると思いますが、日本企業におけるレベルは一般的に低いとされています。ここ数年、企業は「働き方改革」という錦の御旗の下、さまざまな施策を導入していますが、実態は単に残業削減を推奨したり、在宅勤務のテレワーク・リモートワークに多くの条件と厳密な管理を課したりと、形ばかりの仕組みであるケースが多く見受けられます。仕組みだけを変えたところで企業が変わることはありません。持続的成長を実現する「強い組織」を構築するためには、社員の多様性を尊重し、1人ひとりの能力とモチベーションを高め、自律的な行動変革を促す「攻めの人材マネジメント」が不可欠です。経営者と人事部門は、社員が求めていることは「どこの会社で働いているか」ではなく、自社で「何をしたいか」「どのようなことが得られるか」であること強く認識し、社員と組織の関係性だけではなく、社員と仕事との関係性にも目配せした施策が必要であることを肝に銘じるべきです。

エンゲージメントが高い状態の企業、あるいはその向上に先進的に取り組んでいる企業は、経営者が職場や社員の仕事ぶりを知ろうとする姿勢があり、人事部門とともに社員の働きやすさに向き合い、配慮しています。そうした経営者は、社員に生き生きと働いてほしいとか、社員は財産であるとか、社員あっての会社なのだから楽しく働いてもらいたい、と異口同音に話します。中には、エンゲージメントは自身がきちっと経営をできているかどうかを客観的にモニタリングするための「通信簿」と位置付けているケースもあります。一方、職場や社員の働きぶりを知ろうともせず、業績や残業時間などの数字だけを見て対策を講じたつもりになっている経営者や人事部門が力を持っている企業は、エンゲージメントが相対的に低く、今後の人材獲得競争の中で徐々に淘汰される運命に見舞われる恐れがあります。エンゲージメントが低い状態は、社員だけでなく、企業にとっても大きなマイナスです。社員が「この会社で働くっていいな」と意気に感じる体験を重ねられることがエンゲージメントを高め、前述のとおり、それが業績や業務品質、さらには顧客満足の向上につながっていきます。また、社員1人ひとりのエンゲージメント向上は周囲の別の社員へも波及し、業務の仕組みや組織文化の変革、新たな価値の創造へと結びついていくのです。

(談)

注:社員が会社に対して高いロイヤルティーや好感、愛着を持ち、積極的な関与や貢献、行動が伴うなど、社員と会社が強い絆で結びついている状態

■社員エンゲージメントが好業績を生み出す例

(2019年6月17日)

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