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■「コロナ後はコロナ前とは違う」というコンセンサス
2019年末に中国・武漢から始まった新型コロナウイルスの流行は、瞬く間に世界に広まり、世界経済に深刻なダメージを与えている。2020年の世界経済成長率は、リーマン・ショック直後の2009年(▲0.1%)より深く落ち込むことがほぼ確実となった。感染症に対する恐怖・不安の中で、世界各地で実施されたロックダウン(都市閉鎖)措置によって経済活動が急激に収縮するのを目の当たりにし、「コロナ後の世界がコロナ前に戻ることはない」との認識が人々の間で広まっている。

振り返ると、2008年9月に起きたリーマン・ショック後の金融危機は、1929年に始まった大恐慌以来80年ぶりといわれた。2011年3月の東日本大震災で東北地方沿岸を襲った津波は1,000年に一度、今回の新型コロナウイルスはスペイン風邪の流行(1918~20年)以来100年ぶりのパンデミック(世界的大流行)である。私たち(特に日本人)は、わずか10年余りの期間に、これだけのことが降りかかる稀有な経験をしている。無理もないことだが、世界がひっくり返ったような激動の渦中に身を置くと、これまでの常識がすべて覆されたような感覚に陥りがちだ。「『アフターコロナ』は『ビフォーコロナ』とは違う」という認識が人々のコンセンサスになっているのもうなずける。

だが、リーマン・ショックや東日本大震災の前後で、世界の様相はどこまで変化しただろうか。筆者は、リーマン・ショック後に起きた最大の変化は、世界的な金融規制の強化だと考えている。ただし、グローバル金融危機下で、国際協調の必要性が高まったことを受けて発足したG20(主要20カ国・地域首脳会議)は、その後あまり機能しているとはいえない。一方、東日本大震災は多くの人々の生活に甚大な影響を与えたうえ、現在もほとんどの原子力発電所が稼働できない状況が続いている。そうした中で、多くの人は震災直後の節電に対する意識を忘れ、震災前の日常に戻っているように見える。

これらの危機の前後で変化が起きたことは確かだが、喉元過ぎれば熱さを忘れるのも人間の性だ。おそらくは今回のコロナ・ショックの後も、不可逆的な変化と元の日常に戻る動きが錯綜することになろう。

■「新しい生活様式」「手元資金確保」はウィズコロナ期間限定?
コロナ後の世界を見通すうえでは、ワクチンや治療薬の開発、治療法が確立する前の「ウィズコロナ」の期間と、治療薬などが普及してウイルスが生命への脅威でなくなった後の「アフターコロナ」とを分けて考える必要がある。

典型的なのが、飲食店や宿泊業、娯楽施設などが迫られる密閉・密集・密接のいわゆる「3密」回避の対応だ。5月下旬に全国で緊急事態宣言が解除されたことを受けて、多くの事業者が営業を再開したが、当面は3密を回避するため、座席数削減や入場規制などの対応が必要となる。飲食店は座席の距離を空けるなどの対応を強いられ、店舗の稼働率低下は免れない。プロ野球やJリーグなどのプロスポーツも、再開当初は無観客で開催され、スタジアムを満員にすることはしばらくできそうもない。動物園や水族館、テーマパークも入場者数制限などの対応をしながらの営業となる。事業者は、感染症対策を講じる費用負担に加え、店舗や宿泊施設、スタジアムなどの稼働率を通常時より低く抑えて営業しなければならず、収益を上げるのが困難な状態が続く。しかし、ウィズコロナの期間が過ぎれば、できるだけ多くの客を入れて店舗や施設の稼働率を上げることにより、収益を確保するスタイルに戻るであろう。

一方、旅行は6月下旬以降、国内の移動が自由になった。しかし、多くの日本人は、感染の脅威が残っている間は旅行を控える可能性が高い。海外旅行客の受け入れは、政府が当面慎重姿勢を維持する中で、最も回復が遅れる分野となりそうだ。鉄道・飛行機なども、ウィズコロナの期間は混雑回避のため、席数を削減するなどの対応がとられる可能性が高い。旅行関連業界は、今回のコロナ禍で最も打撃を受ける業界の1つになることは間違いないだろう。それでも、アフターコロナに移行すれば、グローバル・ツーリズムの動きが再び活発化することは想像に難くない。航空業界もなるべく多くの旅客を乗せて輸送効率を向上させ、廉価な航空券を実現するビジネスモデルに回帰するであろう。

飲食店や宿泊業、娯楽施設、旅行業界は、今回のコロナ禍で深刻なダメージを受けたが、3密回避のために講じるさまざまな施策は、新しいビジネスモデルというより、ウィズコロナ期間に限定された事象であり、アフターコロナになれば元に戻る性質のものだ。

他方、企業セクター全体でみると、現預金など手元流動性を厚めに保有することが是とされるのは、ウィズコロナ限定の事象である可能性が高い。日本企業はコロナ禍が起きる前、利益を投資や株主還元に十分に回さず、現預金を積み上げることを批判されていた。緊急事態宣言の影響で経済活動が急激に落ち込んだ足元では、手元流動性を厚めにしていたことが幸いした企業も多いだろう。しかし、アフターコロナでは、再び成長のために投資を増額するようになったり、株主から自社株買いなどによる還元を要求されるようになったりして、「有事に備えて」といった曖昧な理由で現預金を積み増すことは許されなくなる可能性が高い。

■日本における在宅勤務可能な労働者は3割、導入は緩やかに進む
その半面、アフターコロナの期間に入ってからも継続する変化がある。こうした変化こそ、本当の意味での「構造変化」と呼ぶべきものだ。

その1つが在宅勤務の普及であろう。今回は政府・自治体からの突然の要請で、半ば無理やり在宅勤務を実施せざるをえなかった企業が多い。制度を導入済みだった企業でも、従業員の半数を超えるような在宅勤務は想定しておらず、PC端末などのハードウェアや通信インフラの備えが十分でなく、業務に支障を来した企業も少なくない模様である。緊急事態宣言が解除された後、オフィスに通勤する労働者は増えたが、ウィズコロナの期間は感染防止の観点から、ある程度の在宅勤務を維持する企業が多くなりそうだ。さらに、アフターコロナになっても、企業には柔軟な働き方を促進して労働者を確保するインセンティブがあるため、在宅勤務は徐々に一般化していくことが予想される。ただし、当社が労働者の職務内容から分析した結果によれば、日本において在宅勤務が可能な労働者は全体の3割程度にとどまる(注)。緊急事態宣言中のように、5割を超える労働者が在宅勤務を行うと企業活動に支障が出るため、在宅勤務の導入は緩やかに進むことになるだろう。

在宅勤務とも関係するが、日本における文書主義やハンコ文化は、コロナ禍をきっかけに大きく変わる可能性が高い(というより、大きく変えていく必要がある)。緊急事態宣言下で在宅勤務の妨げとなったのは、文書でのやり取り、中でもハンコを押さなければならない書類の存在だった。また、日本政府による各種給付金の支給が遅れたのも、マイナンバーカードが普及しておらず、対面や郵送での文書のやり取りが必要になったことが大きい。これを機会に企業・政府とも業務プロセスを見直し、無駄な書類を削減したり、電子化を進めたりすることが省力化・生産性の向上につながる。電子政府化の取り組みは諸外国に比べて遅れており(図)、速やかにキャッチアップしなくてはならない。

■オフィス地方移転はオンラインで業務を完結できる一部企業に限られる
もう1つ、在宅勤務の一般化と関わることで注目されるのは、不動産市場の動向であろう。在宅勤務が一般化すると、都心のオフィスが不要となり、地方に分散するとの見方が一部にある。他方でソーシャル・ディスタンス確保の必要性から、1人当たり床面積はむしろ広くなるため、オフィス需要が減ることはないとの意見もあり、見方が分かれている。筆者の個人的な見解では、コロナ禍は都市部への一極集中を解消し、地方分散を促す決定的な要因とはなりえない。その理由は、以下の通りである。

これまでの文脈で言えば、ソーシャル・ディスタンス確保はウィズコロナ限定の問題であり、長期的に1人当たり床面積を増加させる要因とはならない。在宅勤務の一般化がアフターコロナを通じた構造変化と考えるなら、都市から地方へのオフィス分散が進みそうに思える。だが、アフターコロナになれば、集積のメリットが見直されることも念頭に置く必要がある。そもそもコロナ・ショックが起きる以前、都市部への集中が起きていたのはなぜだったのか。企業側の視点に立てば、都市部にオフィスを構えることには、インフラの充実や商談相手の見つけやすさ、人材確保の容易さなどの利点がある。一方、労働者側からみると、職住近接の方が共働き世帯は働きやすく、子女の教育環境も都市部の方が充実しているケースが多い。出社ゼロの完全な在宅勤務ができる一部の企業を除けば、引き続き都市部に立地するメリットは企業・労働者の双方にある。したがって、オフィスの地方移転の動きは、オンラインですべての業務を完結できるごく一部の企業に限られるだろう。

■ウィズコロナ期間は「不確実性」がつきまとう
このように、基本的な図式としては、ウィズコロナ期間は経済活動がさまざまに制限され、アフターコロナはそれが元に戻る動きが顕在化する時期と捉えられる。そして、今回のショックで露呈した文書主義・ハンコ文化の弊害、それによる電子政府化の遅れなど日本特有の問題については、両期間を通じて改善が図られることになろう。

経済全体を俯瞰した場合、ウィズコロナ期間の特徴は「不確実性」がつきまとうことである。感染リスクを警戒して人々が外出・旅行に慎重になることは、個人消費を抑制する要因になる。加えて、いつ感染拡大の第2波が発生するかわからず、ウィズコロナ期間がどれだけ続くかわからない不確実性が、家計や企業の行動を縛る。将来の雇用や賃金への不安を抱えた家計は予備的貯蓄動機を強めるため、支出の抑制につながる。その間、手元流動性を確保して不測の事態に備える企業は、設備投資を抑制するだろう。

日本での緊急事態宣言解除、海外でのロックダウン終了を受けて、今夏以降の世界経済は回復に向かうが、ウィズコロナ期間は不確実性が重石となる。多くの国で経済活動の水準が元に戻るのは、コロナをめぐる不確実性が解消するアフターコロナになってからだ。結局のところ、景気の先行きは「ワクチンと治療薬が開発され、世界の多くの人が利用可能になる時期がいつになるか」にかかっている。

注:みずほインサイト「在宅勤務はどこまで進むか~在宅勤務可能な労働者は3割程度」(小寺信也、2020年5月22日)

https://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/insight/jp200522.pdf

■図 公的機関のウェブサイトを通じて申請書等を提出した個人の割合

注:"Individuals using the internet for sending filled forms via public authorities websites - last 12m"の値。チリは2017年、カナダ・コスタリカ・日本は2018年、その他は2019年データ。

資料:OECD.Statより、みずほ総合研究所作成

(2020年6月30日)

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